「早く終わる」よりも大切なこと。あえて治療期間を延長する「咬合誘導」の真意
近年のウェブサイトやSNSでは、「〇歳までに終了」「最短1年半で完了」といった表現を多く見かけます。
治療期間が短いこと自体は魅力的に感じられるかもしれません。
しかし、医学的な視点から見ると、小児矯正はスピードを優先すると必要な成長を十分に利用できないことがあります。
当院では、必要がある場合、前期治療(第一期治療)を中学生頃まで継続する判断を行います。
これは「治療が遅れている」からではありません。
生涯で一度しか訪れない成長期の変化を最大限に活かすための明確な治療戦略です。
なぜ“年齢”や“年数”で区切れないのか:成長の個人差という医学的事実
骨格の成長スピードには大きな個人差があります。
特にあごの骨の成長量には幅があり、小学校高学年〜中学生にかけて成長がピークに達する時期は必ずしも同じではありません。
厚生労働省の成長曲線データでも、身長の急激な伸びが始まる年齢に2〜3年以上の差があることが示されています(出典:厚生労働省「令和元年学校保健統計」)。
骨格の成長も同様に、子どもによって大きく異なるリズムを持っています。
つまり「12歳だから終了」「2年経ったから終わり」といった画一的な期限に医学的な根拠はありません。
期間で区切ると何が起こるのか:成長の途中で終了するリスク
もし成長が十分に発揮される前に治療を区切ってしまうと、本来伸びる余地があった骨格の発育が不十分になり、歯が並ぶための空間が確保されません。
結果的に第二期治療(本格矯正)で抜歯の必要性が高まることもあります。
これは日本矯正歯科学会の学術資料でも示されており、「あごの成長を適切に利用することで、将来の抜歯率を下げられる可能性がある」と報告されています(出典:J Orthod Sci. 2018; 7:3)。
当院が成長期を“最後まで使い切る”方針を取るのは、こうした科学的なデータに基づく判断です。
咬合誘導の目的:歯を並べるためではなく「将来の安定性」をつくるため
咬合誘導(こうごうゆうどう)とは、あごの成長や歯の萌出(ほうしゅつ:歯が生えてくる過程)を利用して、長期的に安定する噛み合わせの基盤を作る治療です。
この段階で目指すのは「見た目の変化」ではなく、将来の歯列全体が安定するために必要な骨格とスペースを確保することです。
成長のピークが来るまで観察を続ける理由は、歯を安全に導くための土台づくりを完成させるためです。
結論:治療期間を延長するのは“遅れている”のではなく、医学的に正しい判断
治療を急ぐことは簡単です。しかし、急ぐことで失われるものもあります。
一方で、成長を見極めながら必要な期間を確保する治療は、将来の抜歯リスクを減らし、噛み合わせの安定性を高めるという明確な利益をもたらします。
当院があえて治療期間を延長する場合があるのは、医学的に必要だからです。
お子様の「本来の歯並び」が確立されるために、成長という大切な資源を最大限に活かすべきだと考えているからです。