その「完璧」は、本当に美しいか。
私たちが “Natural” を治療方針として貫く医学的理由
SNSや広告では、白く均一で直線的に並んだ歯並びが、「理想的な美しさ」として示される場面を多く目にします。
その影響から、鏡に映るご自身の口元の、わずかな左右差や数ミリの違いに違和感を覚える方も少なくありません。
美しさを追求する意識そのものは、非常に健全で価値のあるものです。
一方で、顎顔面領域の成長発育と矯正治療を専門とする立場からは、必ずお伝えしなければならない事実があります。
幾何学的に整えられた形としての「人工美(Plastic)」と、
生体の構造と機能に基づく「機能美(Natural)」は、
目的も判断基準も異なります。
1. 歯は「見た目」を整える対象ではありません
当院では、「Delicate. Natural.」を診療指針としています。
これは、歯を外見上の要素としてではなく、呼吸・咀嚼・発音といった機能を担う生体組織の一部として捉えるという明確な姿勢を示しています。
骨格の幅や前後的位置、軟組織との関係を考慮せず、見た目の整列だけを目的に歯列を設計した場合、歯並び自体は整って見えるかもしれません。
しかしその結果として、口元の立体的なバランスが変化したり、年齢とともに顔全体の印象が変わりやすくなるなど、長期的な影響が生じる可能性があります。
歯並びという一部分だけが高く評価されても、顔貌全体との調和が失われてしまえば、それは医療として適切な結果とは言えません。
2. 私たちが重視するのは「均一さ」ではなく「適合性」です
当院が治療で重視しているのは、形をそろえること自体ではありません。
その方の骨格構造、筋機能、唇や口角の動きと適合した、無理のない歯列の位置です。
- 表情の変化に対して自然に見える歯列のカーブ
- 唇に過度な緊張を与えない上下顎の位置関係
- その方が本来持つ印象が、過不足なく表れる歯の配置
これらは、画一的な数値目標や流行の形を当てはめるだけでは実現できません。
当院では、「どこまで動かせるか」ではなく、「どこにあるべきか」を診断し、骨格レベルで設計を行います。
その過程で、患者様が参考にされた写真やトレンドに対し、医学的な理由から別の選択肢をご提案する場合もあります。
それは否定ではなく、10年後、20年後も安定した状態を保つための、医療としての判断です。
結論:美意識を、長期的に成立する「調和」へ
「もっと整えたほうがよいのではないか」と感じているときほど、一度立ち止まって考えてみてください。
私たちは、悩みや理想を軽視することはありません。
一方で、その方本来の調和を損なう可能性がある治療を、見た目の完成度だけを理由に行うことはありません。
精密に、合理的に、そして将来まで見据えて。
それが、私たちが考える「Natural」という治療方針です。