必要なときに、必要なだけ ―― 子どもの矯正「早期治療」をエビデンスから考える

お子さまの歯ならびや噛み合わせについて、「早く始めたほうがいいですか?」とよく聞かれます。

正直にお答えすると、答えは「その子の状態しだい」です。早く始めたほうがよい子もいれば、いまは様子を見たほうがよい子もいます。装置をつけること自体が目的ではありません。その子に本当に必要かどうかを見きわめる――当院は、そこにいちばん時間をかけています。

この記事では、その判断のもとになっている研究(エビデンス)も、できるだけ正直にお伝えします。

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歯を動かす力には、逆向きの力もはたらきます

歯を動かすとき、その力は、支えになっている歯やあごにも逆向きにかかります(作用と反作用)。取り外しできるやさしい装置なら大きな問題は起きにくいのですが、それでも「ねらっていない動き」がまったくないわけではありません。だから当院は、「早く入れるほどよい」とは考えません。

「早いほうがよい」かどうかは、噛み合わせのタイプで変わります

ここがいちばん大切なところです。同じ「早期治療」でも、研究が示す意味は、噛み合わせのタイプによって違います。

出っ歯タイプ(上の前歯が前に出ている)

このタイプでは、信頼できる研究がそろって同じ結果を示しています。「子どものうちに一度、思春期にもう一度」という二段階のやり方は、最終的な歯ならび・噛み合わせで見ると、「思春期にまとめて治す」一段階とほとんど差がない、というものです。早い時期にいったん良くなっても、その後の本格的な治療を進めるうちに、差は縮まっていきます。

ただ一つだけ、早く始める利点がはっきりしています。前歯が強く前に出ている子では、早めに治すと、前歯をぶつけてケガをするリスクが下がることがある、という点です(ただし確実ではなく、差がなかった研究もあります)。

つまり出っ歯は、「とにかく早く」ではなく、ケガのリスクなど、その子の事情に応じて早期を考える、ということです。

受け口タイプ(下の前歯が前に出ている)

反対に、受け口では逆の結果が出ています。上あごを前に引き出す装置(フェイスマスク)を子どものうちに使ったグループは、使わなかったグループより、大人になってから「あごの手術が必要」と判断された割合が低かった、という研究があります(7〜9歳・6年間の追跡)。

ただし注意点もあります。早いうちに得られたあごの骨の改善は、数年でうすれていく傾向があり、長く安定するかどうかは、まだ十分にわかっていません。それでも「将来、手術が必要になるか」という点では、早く治した子のほうが低かった――これが、いまわかっていることです。

つまり受け口は、出っ歯とは反対に、早めに始める意味が比較的あります。ただし「やれば確実」ではなく、後戻りや成長による変化もある前提で、時期を選びます。

なお、あごの骨そのもののズレが大きく、将来、手術をともなう矯正(外科矯正)になる可能性がある場合は、治療を一貫して受けられるよう、保険で手術まで対応できる「指定自立支援医療機関」をご紹介します。その子にとっていちばんよい道を優先する――それが当院の考え方です。

前歯だけが逆にかんでいる場合は、また別の話です

受け口のなかでも、あごの骨ではなく、前歯が1本〜数本だけ逆にかんでいる状態(歯性の前歯部反対咬合)は、分けて考えます。そのままにすると、かむたびに下の前歯に負担がかかり、歯ぐきが下がったり、噛み合わせのズレがクセとして固まってしまうことがあります。こうしたケースは、永久前歯を守るために早めに対応することが多く、当院でも、必要と判断した子には対応します(この分野は大きな研究が少なく、おもに臨床の経験と考え方にもとづく判断です)。

「いま動くか、様子を見るか」を、一緒に

様子を見ることも、りっぱな選択肢のひとつです。早期治療が活きる子もいれば、いまは待ったほうがよい子もいます。その見きわめこそ、当院がいちばん時間をかけたいところです。気になることがあれば、装置をつける前の段階で、どうぞお気軽にご相談ください。


エビデンスについて(くわしく知りたい方へ)

この記事は、おもに以下の研究にもとづいています。

出っ歯タイプ(Class II)の早期治療

  • Batista KBSL, Thiruvenkatachari B, Harrison JE, O’Brien KD. Orthodontic treatment for prominent upper front teeth (Class II malocclusion) in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2018;(3):CD003452. ―― 27件の比較研究・1,251名をまとめたもの。早めの二段階治療は、思春期にまとめて治す一段階治療と比べ、最終的な歯ならび・噛み合わせに差がなかった。例外は前歯のケガが減ること。研究の確かさは低〜中くらい。
  • Tulloch JFC, Proffit WR, Phillips C. Outcomes in a 2-phase randomized clinical trial of early Class II treatment. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2004;125(6):657-667. ―― 早期治療は最終的な結果や治療期間にほとんど影響せず、早い時期にできた差は最終的に消えた。
  • O’Brien K, et al. Early treatment for Class II Division 1 malocclusion with the Twin-block appliance: a multi-center, randomized, controlled trial. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2009;135(5):573-579.
  • Thiruvenkatachari B, Harrison J, Worthington H, O’Brien K. Early orthodontic treatment for Class II malocclusion reduces the chance of incisal trauma. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2015;148(1):47-59. ―― 早く治すと、前歯のケガのリスクが、やわらかい装置で約33%、ヘッドギアで約41%下がった。ただし不確実さは大きい。

受け口タイプ(Class III)の早期治療

  • Mandall N, et al. Early Class III protraction facemask treatment reduces the need for orthognathic surgery: a multi-centre, two-arm parallel randomized, controlled trial(6年追跡). J Orthod. 2016;43(3):164-175. ―― 7〜9歳・73名。6年後、フェイスマスクを使った子は「手術が必要」と判断された割合が36%、使わなかった子は66%だった。
  • Owens D, Watkinson S, Harrison JE, Turner S, Worthington HV. Orthodontic treatment for prominent lower front teeth (Class III malocclusion) in children. Cochrane Database Syst Rev. 2024;(4):CD003451. ―― 29件の研究・1,169名。早期の治療は短期的には噛み合わせを良くするが、フェイスマスクのあごの骨への効果は3年でうすれ、6年でほぼ消える。一方、将来の手術の必要性は治療した子で低かった。研究の質には限界がある。

※この記事は一般的な情報提供であり、お一人おひとりの診断・治療方針を示すものではありません。実際の判断は、診察のうえで行います。

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