「矯正」ではなく「咬合誘導」。成長を生かして、本来の噛み合わせを育てるという考え方
「○歳までに終わる矯正」や「1年半で完了」といった期間を区切る表現が多く見られます。
しかし、小児期の治療で重要なのは“どれだけ早く終わるか”ではなく、“どれだけ成長を活用できるか”です。
実際に、当院では「前期治療の範囲で、できるだけきれいな状態まで仕上げてほしい」というご希望をいただくことがあります。
そのため、医学的に可能な場合には、永久歯が生えそろう時期まで前期治療を継続し、最も良い結果が得られるよう設計することがあります。
子どもの成長は、一人ひとり異なります
あごの骨の成長量、永久歯の萌出(ほうしゅつ:歯が生える過程)、歯列の発育スピード──これらはすべて個人差があります。
早い子もいれば、時間をかけてゆっくり育つ子もいます。どちらも自然な成長です。
厚生労働省「令和元年学校保健統計」でも、身長の急激な伸びが始まる年齢には2~3年以上の差があることが示されています。骨格の成長も同様に、全員同じとは限りません。
(出典:厚生労働省 令和元年学校保健統計)
このため、年齢や年数で一律に治療を区切ることには医学的根拠がありません。 十分に成長が発揮される前に区切ってしまうと、本来得られたはずの骨格的なスペースを逃してしまいます。
また、第一期治療が終了したあとに「第二期治療へ進むほどではないが、もう少し整えたい」というケースもあります。その場合は、前期治療を適切な範囲で延長し、成長を利用して調整することがあります。
このような“あいだ”の判断こそ、成長の知識・経験・診断基準が不可欠であり、画像診断(セファロ分析など)に基づいた根拠をもとに決定します。
成長期は一度しかありません。
その大切な時期を医学的に無駄にしないことが、将来の安定した噛み合わせにつながります。
「咬合誘導」という、小児歯科の基本となる考え方
咬合誘導(こうごうゆうどう)とは、あごの成長や歯の萌出の流れを利用し、永久歯が無理なく並ぶための土台を整える治療です。
歯を強い力で動かすのではなく、「成長そのものを設計に取り入れる」という点が特徴です。
矯正専門領域では「歯を整えること」自体が治療の中心になるため、こうした“成長を見守りながら誘導する治療”が軽視されることもあります。
しかし咬合誘導は、第二期治療のための付属作業ではなく、明確な医学的根拠をもつ治療です。
論文でも、成長期に適切な誘導を行うことで将来の抜歯率が下がる可能性が示されています。
(出典:J Orthod Sci. 2018; 7:3)
当院では、子どもの成長を「待つこと」も治療の一部と考え、過不足なく診断しながら進めています。
「次の治療ありき」ではなく、成長に合わせた判断を行います
小児矯正は「第一期治療」と「第二期治療」の2段階に分けられますが、第一期治療で噛み合わせが安定した場合、当院では第二期治療を無理に勧めることはありません。
治療の目的は、次の段階へ進めることではなく、成長期に得られる医学的メリットを最大化することです。
もし第二期治療が必要になる場合でも、画像診断に基づく明確な理由を説明し、ご本人と保護者が納得された場合にのみ進みます。
焦らず、お子さんのペースを尊重することが重要です
咬合誘導はスピードを競う治療ではありません。
「何歳までに終わるか」よりも、「お子さんの成長のタイミングに合わせて進めること」が、医学的に合理的です。
まとめ
✓ 矯正ではなく、成長を生かす「咬合誘導」が基本
✓ 子どもの成長スピードには大きな個人差がある
✓ 年齢や期間で区切るより、成長のピークを治療に活用することが重要
✓ 第一期治療で安定すれば、第二期治療を無理に勧めない
✓ 第二期治療が必要な場合は、画像診断と説明のうえで判断
✓ 「早く終わる」より、「本来の歯並びが安定すること」を大切にする
なお、前期治療の期間や装置の選択について、より詳しい内容は以下の記事でご紹介しています。