受け口(下の前歯が上の前歯より前に出る噛み合わせ)は、必ずしも「病気」というより、骨格や歯並びの“個性”として現れることがあります。下あごが長い/短い自体を、ただちに異常と決めつけるものではありません。
実際、下あごが少し前に出た顔立ちは古くから人に見られるもので、日本の伝統的な能面にもその表情が見られます(文化遺産オンライン:般若/中将/泥眼)。受け口は、ことさら特別な「異常」ではない、という一つの手がかりです。
一方で、受け口は見た目だけの話ではありません。AAO(米国矯正歯科学会)も、受け口(underbite)は噛みにくさ・発音の問題・歯の摩耗・あごの不快感につながり得ると説明しています。 American Association of Orthodontists
つまり「何が困っているか(機能)」と「どの原因か(歯の当たり方か/あごの成長傾向か)」を分けて評価することが大切です。

歯並びのご相談はお気軽に
LINEで無料相談受け口の治療 ― 既製のマウスピース型装置だけでは足りないことがあります
お子さまの受け口には、お口まわりの筋肉に働きかける「既製の機能的マウスピース型の装置」が使われることがあります。習慣づけの入り口としては役割がありますが、骨格性の受け口(下あごが前に出る成長傾向)に対しては、これだけでは骨の成長の方向を導く力として十分でないことがあります。
骨格性の受け口では、上あごの成長を前方に促す前方牽引装置を用いて、成長の方向を管理していく治療が必要になるケースがあります。上あごの拡大とあわせて、成長期の早い段階から取り組むことが大切です。(下の図は、こうした治療の一般的な流れと、装置を使ううえでの管理のイメージです。)

これらの装置は、毎日の使用と、装着後の管理・食べ方の工夫が治療の質を支えます。硬いもの・粘着性のあるものは装置に負担がかかるため、避けていただく食べ物があります。

なお、お子さまの骨格性の受け口に対する前方牽引の治療そのものは、当院では行っておりません。下であごの成長を見きわめ、必要なケースは、適切な体制の整った医療機関をご紹介しています(成長の止まった成人の受け口は、当院でも矯正を行っています)。上の図は、そうした治療が一般にどのようなものかをご理解いただくためのものです。
前期治療のあとも、下あごは成長を続けます
前期治療を行っても、中学生でまた受け口になることがあります。これは矯正の後戻りではなく、下顎の成長が原因です。身長の伸びを止めることができないのと同じで、下顎の成長を止めることはできません。
受け口は成長の影響を受けやすいため、治療そのものだけでなく、定期的な観察(経過チェック)が長く必要になることがあります。
予想以上に下あごが成長した場合 ― 外科矯正という選択肢
骨格(あごの位置や大きさ)そのものを大きく動かす必要がある重度のケースや、予想以上に下あごが成長した場合には、成長が止まったあとに、矯正に加えて外科的矯正(あごの手術=orthognathic surgery)が検討されることがあります。
AAOは、外科的矯正は骨格の問題によって“噛む・飲み込む・話す”に支障がある場合などに行う治療だと説明しています。 American Association of Orthodontists
外科矯正(あごの手術)を健康保険で受けるには、指定を受けた医療機関で治療する必要があります。具体的には、自立支援医療(育成医療・更生医療)や、顎口腔機能診断施設の指定を受けた医療機関です。指定を受けていない施設では、外科矯正が保険の対象になりません。
そうであれば、将来的に手術が視野に入るお子さまは、「最初からこうした指定を受けた医療機関で矯正を始められる方が、治療の一貫性が保たれ、費用の面でも負担を抑えられる」と私たちは思います。第一期の治療をどこかで受けてから手術のために移ると、方針の引き継ぎや費用の重複が生じやすくなるためです。
そこで当院では、治療の途中で紹介するのではなく、いちばん最初の診断の時点で外科矯正の可能性があると判断した場合には、その時点で、自立支援医療(育成医療・更生医療)や顎口腔機能診断施設の指定を受けた医療機関をご紹介しています。最初から最後まで一つの方針でつながることが、お子さまにとっていちばん良い結果につながると考えているからです。
— 保護者の方へ —
私たちは長年、たくさんのお子さまの成長を間近で見守ってまいりました。その積み重ねから申し上げる「この先どのように育っていくか」という診断は、高い確率で、その後の実際の経過と一致してまいりました。だからこそ、将来的に外科矯正(あごの手術をともなう矯正)が必要になる可能性が高いと診断したお子さまについては、はじめから外科矯正を手がけている矯正歯科で治療を受けられることを、率直におすすめしています。
保護者の方は、毎日いちばん近くでお子さまを見守ってこられた、何よりの理解者でいらっしゃいます。お迷いになるとすれば、それはただ、判断の材料となる専門的な情報が、まだお手もとにそろっていないからにすぎません。必要な情報をおそろえするのは私たちの役目ですので、そこはお任せください。
お子さまのことだからこそ難しい、ということがあります。深く愛しておられるからこそ、ご自分のお子さまのこととなると、かえって落ち着いて見つめにくくなる。これは多くの方に共通することで、ふだんは物事を冷静に見極められる方でも、お子さまへの愛情が深いぶん、いつもの冷静な判断が難しくなります。そんなときは、「お友達のお子さま」「親戚のお子さま」のことだったら自分はどう勧めるだろう、と思い描いてみてください。ふだんどおりの落ち着いた目で見つめられて、ほんとうに良い選択が見えやすくなることがあります。
そのうえでお願いしたいのは、信頼できる複数の専門家のお話を聞き、情報を集めていただくことです。お迷いは、無理に「決めよう」となさるより、十分な情報がそろうことで、自然と晴れてまいります。
最後にお子さまを守るのは、思いの強さそのものよりも、治療の「結果」だということを、私たちは大切にしています。外科矯正が視野に入るケースでは、はじめから手術をともなう治療まで一貫して診ている医院で始められることに、大きな意味があります。最初から最後まで方針が一本につながることが、お子さまにとっていちばん良い結果につながると考えているからです。
私たちからは、信頼できる紹介先をお伝えしています。複数の先で実際にご相談いただいたうえで、お選びください。どこを選ばれても、私たちが信頼してお任せできる先ばかりですので、どうぞ安心してお進みください。
成人の場合は、下顎の成長がないため、当院でも受け口の矯正を行っています。



